認知症の母親にイライラしてしまう…介護者のストレスの対処法は?

監修者の石川蓮(公認心理師)先生より

認知症の母親の介護を続けるなかで、イライラしてしまったり、強く当たってしまった自分を責めて苦しくなる方は少なくありません。

けれどもそれは、あなたの人間性の問題ではなく、介護による心身の負担が積み重なった結果として起こりうる自然な反応です。

この記事では、介護者がストレスを抱えやすい理由と、自己嫌悪を深めすぎる前に知っておきたい対処法や頼れる支援先について整理します。

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50代女性(会社員)

認知症の母の介護をしていますが、最近イライラが止まりません。
同じ質問を何度も繰り返されたり、さっき説明したことを忘れて怒り出す母に、つい強い口調で当たってしまいます。

夜中に何度も起こされる日が続いて睡眠不足のまま出勤し、仕事と介護の両立に限界を感じています。
介護者としてストレスの対処法を調べても現実的に難しいものばかりで、どこまで自分が我慢すべきなのかも分かりません。

イライラして当たってしまったあとの自己嫌悪がいちばんつらいです。
こんな自分は、ひどい人間なのでしょうか。

ココラボ相談室からの回答

ご相談ありがとうございます。
毎日の介護と仕事を両立しながら、ここまで一人で踏ん張ってこられたのですね。

この記事では、認知症の介護者がストレスを抱える背景と、今の状況を少しでも楽にするための考え方を整理していきます。

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認知症の介護者がストレスを感じるのは自然なこと

認知症の介護をしていて、イライラしてしまう自分に戸惑っている方は少なくありません。
まず知っていただきたいのは、その感情はあなただけのものではないということです。

多くの介護者が悩みやストレスを抱えている

厚生労働省の国民生活基礎調査(令和4年)によると、介護での悩みやストレスがある方のほうが、ない方より倍近くいることが分かっています。
また高齢になるほど、長期化する介護生活に対してストレスを感じやすくなる割合が高く出ています。

介護を抱える人の悩みやストレスの割合

この数字が示しているのは、介護でつらいと感じることは決して少数派の悩みではないという事実です。
高市早苗首相もまた、配偶者の介護と向き合った経験があることが報じられています。
立場や環境に関係なく、介護は人の心に大きな負荷をかけるものであり、誰もが介護の前では同じように苦しみ、迷うものなのです。

参照:現代ビジネス

介護のストレスは、性格や覚悟の問題ではありません。あなたが今感じている苦しさは、弱さでも甘えでもないのです。

イライラの正体は「愛情の裏返し」であることも

認知症の母親にイライラしてしまったあと、自分はなんてひどい人間なんだろうと落ち込む方はとても多いです。
しかし、そもそもどうでもいい相手に対して、人はそこまで感情を揺さぶられません。

イライラの奥にあるのは、もっとちゃんと向き合いたい、以前のように会話がしたいという気持ちであることが少なくありません。
大切に思っているからこそ、思い通りにいかない現実に心が追いつかなくなるのです。

イライラしてしまう自分を責める前に、その感情の奥にある気持ちに目を向けてみてください。
あなたがイライラするほど介護に向き合っていること自体が、母親を大切に思っている証拠です。

なぜ認知症の母親の介護はこんなにつらくなるのか

介護がつらいと感じる背景には、認知症ならではの事情と、介護者自身の心の動きが複雑に絡み合っています。
ここでは、ストレスが積み重なっていく要因を整理します。

認知症特有の行動が引き起こすストレス

認知症が進行すると、暴言や介護拒否、夜間の徘徊、昼夜逆転といった周辺症状が現れることがあります。
こうした行動は本人の意思ではなく、脳の機能低下によって引き起こされるものです。

頭ではそう分かっていても、何度も同じ質問を繰り返されたり、さっき説明したことを忘れて怒り出されたりすると、冷静でいることは簡単ではありません。
特に夜間の対応が続いて慢性的な睡眠不足に陥ると、感情のコントロールが著しく難しくなります。

普段なら受け流せる言動にも、強い怒りや疲労感が湧き上がってしまうのは、心が弱いからではなく、心身が限界に近づいているサインです。

「ちゃんと介護しなければ」という思い込みと罪悪感

介護でストレスを抱えやすい方の多くに共通しているのが、自分がしっかりやらなければという強い責任感です。
手を抜くことや人に頼ることに罪悪感を覚え、結果として一人で負担を抱え込んでしまいます。

この思い込みの背景には、親に育ててもらった恩返しをしなければという気持ちや、周囲からちゃんとしている家族と見られたいという無意識の期待があることもあります。
しかし、完璧な介護を目指し続けると、できなかった日の自分を責めてしまい、罪悪感がさらに膨らんでいく悪循環に陥ります。

介護は、完璧にやることよりも、続けられる形を見つけることの方がずっと大切です。うまくできない日があっても、それはあなたの能力や愛情の問題ではありません。

かつての親を失っていく悲しみ

認知症の介護には、身体的な疲労や日々のストレスとは別に、もう一つ深い苦しみがあります。
それは、まだそばにいるのに、かつての母親が少しずつ遠くなっていくという喪失感です。

心理学ではこれを「予期悲嘆」と呼びます。亡くなったわけではないのに、以前のように笑い合えない、会話が成り立たないという現実に、まるで大切な人を失っていくような悲しみを感じるのです。

病気だから仕方ないと頭では理解していても、感情がそこに追いつかないのは自然なことです。
この悲しみは、介護をしていない人にはなかなか分かってもらえないため、一人で抱えがちになります。

もし理由の分からないつらさや虚しさを感じているなら、それは予期悲嘆の一部かもしれません。名前がつくだけで、少し心が整理されることもあります。

今日からできる介護ストレスの対処法

ストレスの原因を理解したうえで、ここからは日常の中で取り入れられる具体的な対処法を紹介します。
無理にすべてを実践する必要はありません。できそうなものから試してみてください。

イライラしたときに距離をとる・深呼吸する

イライラが込み上げてきたと感じたら、まずその場を離れることが最も効果的です。
別の部屋に移動する、ベランダに出るなど、物理的に距離をとるだけで感情の高まりは収まりやすくなります。

またその際に、4秒かけて鼻から息を吸い、8秒かけて口からゆっくり吐く深呼吸を数回繰り返してみてください。
吐く時間を長くすることで副交感神経が優位になり、心拍が落ち着いていきます。

完璧に怒りを消す必要はありません。少しだけ間を空けるだけで、次の言葉や行動が変わります。

思考を書き換える3つのステップ

イライラや罪悪感が繰り返し湧いてくるとき、その裏には自分でも気づいていない思い込みが隠れていることがあります。
認知行動療法の考え方を応用した、シンプルな3ステップで思考を整理してみましょう。

  1. 今感じている感情を、そのまま言葉にする(例:母に怒鳴ってしまって自己嫌悪)
  2. その感情の裏にある考えを探す(例:優しくできない自分はダメだ)
  3. その考えを、もう少し現実的な言葉に置き換える(例:睡眠不足でつらい状態なのに、毎日介護を続けている。それだけで十分頑張っている)
思考を書き換える3つのステップ

これはセルフ・コンパッション、つまり自分自身に思いやりを向ける練習でもあります。
自分を責める声が浮かんだとき、親友が同じ状況だったら何と声をかけるかを想像してみてください。その言葉を、そのまま自分にかけてあげることが、心を守る第一歩になります。

介護の「限界サイン」をセルフチェックする

介護を続けるうえで見落とされがちなのが、自分自身の心身の状態です。以下のような変化が続いている場合は、介護の負担が限界に近づいているサインかもしれません。

  • 好きだったことを楽しめなくなった
  • 疲れているのに眠れない、または何度も目が覚める
  • 食欲が極端に落ちた、もしくは食べ過ぎてしまう
  • 些細なことで涙が出る、または感情が動かなくなった
  • 母親に対して手を上げそうになったことがある

これらは介護うつの初期サインでもあります。介護うつは、長期間の介護ストレスによって発症するうつ状態で、責任感が強く周囲に頼れない方ほどリスクが高いとされています。

該当する項目がある場合は、我慢を続けるのではなく、次のセクションで紹介する頼り先に相談することを考えてみてください。
限界を感じてから動くのではなく、サインに気づいた段階で手を打つことが、あなた自身と母親の両方を守ることにつながります。

一人で抱え込まないための頼り先

介護のストレスを軽くするために、あなたが使える支援は思った以上にあります。
ここでは、状況に合わせて選べる具体的な頼り先を紹介します。

地域包括支援センター・ケアマネジャーに相談する

地域包括支援センターは、各市区町村に設置されている介護の総合相談窓口です。
介護保険の手続きだけでなく、介護者自身の悩みや生活の困りごとについても無料で相談できます。

参考:厚生労働省の地域包括支援センターについて

すでに介護保険サービスを利用している場合は、担当のケアマネジャーに現状を率直に伝えてみてください。
今のケアプランでは負担が大きいと感じていること、睡眠がとれていないこと、イライラが抑えられないことなど、具体的に話すことで支援の内容が見直されることがあります。

何をどう伝えればいいか分からない場合は、最近つらくて限界に近いという一言だけで十分です。

認知症カフェ・家族会で気持ちを分かち合う

認知症カフェは、認知症の方やその家族が気軽に立ち寄り、同じ立場の人と交流できる場です。
全国各地で定期開催されており、お住まいの地域の情報は地域包括支援センターで確認できます。

また、公益社団法人 認知症の人と家族の会 は全国に支部があり、電話相談や家族同士の交流会を行っています。
介護の悩みを打ち明けたとき、分かるよと言ってもらえるだけで、心の重さが変わることがあります。

一人で抱えているものを誰かと分け合えるだけで、見える景色は少し変わります。

心理カウンセリングという選択肢

介護のストレスや罪悪感が日常的に続いている場合、心理カウンセリングを受けてみることも一つの方法です。
カウンセリングは、病気の人だけが受けるものではありません。
気持ちを整理したい、誰かに聴いてほしいと感じたとき、それが利用のタイミングです。

ココラボ相談室では、公認心理師によるオンラインカウンセリングを行っています。
介護と仕事を両立しながらでも、自宅から気軽に相談できる環境を整えています。

一人で抱え込まなくていい、と頭では分かっていても、実際に誰かに話すまでにはエネルギーが要ります。
でも、話してみたら少し肩の力が抜けた、という方はたくさんいます。
あなたのペースで構いません。必要だと感じたとき、選択肢の一つとして覚えておいてください。

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監修者: 石川蓮(公認心理師)

公認心理師、行動心理士。1997年生まれ。北里大学・大学院卒業。その後、公認心理師と行動心理士の資格取得。
在学中は高齢者や生産人口の色覚異常や朝型夜型特性が睡眠に与える効果等の研究を行う。
大学院卒業後、大学病院附属の研究所にてカウンセリングやデータマネジメント担当として勤務。また、都立高校の心理学講師としても勤務。
「心の悩みを持つ方のそばに寄り添う」をモットーに業務遂行しております。

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