サンクコスト効果の恋愛かも…対策は心理学的にあるの?

監修者の石川蓮(公認心理師)先生より

サンクコスト効果は、相手を動かす道具ではなく、自分の判断が苦しくなっているときの目印として読んでいただきたい概念です。

別れる・続けるを急いで決める前に、いまの関係が安心や尊重につながっているかという視点を、ご自身の言葉でゆっくり並べ直す時間にしてください。

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20代後半女性(会社員)

3年付き合っている彼がいます。
最近、優しさよりも疲れる時間のほうが多くて、デートのあとに静かに息が漏れるような感覚があります。

それでも、ここまで一緒に過ごした時間や、彼の家族と会った日のこと、二人で選んだ家電のことを思い出すと、簡単に手放していいのかわからなくなります。

別れる勇気も、続ける確信もないまま、夜に同じことばかり考えてしまう自分に少しずつ疲れています。

ココラボ相談室からの回答

好きなのか、もったいないだけなのか、自分でも分からなくなっている状態は、関係が長くなるほど誰にでも起こりうるものです。
別れる・続けるの結論を急ぐより先に、いま自分の判断が何に引っ張られているのかを少しずつ見ていくほうが、気持ちは整理しやすくなります。

この記事では、サンクコスト効果という心理学の考え方を手がかりに、恋愛で抜け出しにくくなる心の動きと、自分の状態を見直すための視点を一緒に整理していきます。

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サンクコスト効果かもと思う恋愛

迷いを急いで結論にせず、まず自分の気持ちを落ち着いて見つめる場面です。
迷いを急いで結論にせず、まず自分の気持ちを落ち着いて見つめる場面です。

別れたいわけではないけれど、続けることにも迷いがある。そんな気持ちのなかで、まず確認しておきたいのは、いま自分が何を理由に関係を続けているのかという視点です。

サンクコスト効果が恋愛に入り込むと、好きだから一緒にいるのか、ここまでの時間がもったいないから離れにくいのかが見えにくくなります。ここでは、判断を急がずに自分の現在地を整理していきます。

もったいないで続けていないか

サンクコスト効果とは、すでに使った時間や労力、お金を惜しんで、その後の判断が引きずられてしまう心理のことです。埋没費用やコンコルド効果と呼ばれることもあり、もとは経済学・行動経済学の領域で説明されてきた考え方になります。

恋愛の場面でこの心理が働くと、好きだから一緒にいるのか、ここまで重ねた時間がもったいないから離れにくいだけなのかが、自分でも見分けにくくなります。3年付き合った、家族にも紹介した、共通の物がある、といった事実そのものは大切な経験ですが、それと今後一緒にいたいかは本来別の問いです。

過去にかけた時間と、今の安心を分けて眺めると判断の軸が見えやすくなります。
過去にかけた時間と、今の安心を分けて眺めると判断の軸が見えやすくなります。

恋愛における判断は、合理的に切り分けるほど単純ではありません。ただ、もったいないという感覚が強くなりすぎているときは、判断の比重が過去側に寄っているサインかもしれません。

好きと執着が混ざるとき

長く付き合った相手に対して感じている気持ちは、好きという一語ではくくれないことがほとんどです。情、慣れ、安心、罪悪感、孤独になりたくない不安、相手への期待、こうしたものが層になって混ざります。

サンクコスト効果が強く働いているとき、執着や罪悪感が好きという言葉に置き換わって感じられることがあります。本人にとっては好きとしか言いようがないため、自分を疑うこと自体が苦しくなりがちです。

気持ちを整理するときは、好きかどうかだけで答えを出そうとしなくてもかまいません。次のように分けて眺めると、いま動いている感情が少し見えやすくなります。

感情の手がかり見直したい視点
一緒にいると落ち着く安心や尊重があるか
離れるのが怖い孤独や不安が強くなっていないか
ここまでしたのにと思う過去の労力で判断していないか
相手が変わる気がする現在の行動にも変化があるか

ここで大事なのは、自分の気持ちを否定することではなく、いま動いている感情を少し丁寧に並べてみることです。何が混ざっているかが見えてくると、判断を急がずに、自分の状態をもう少し落ち着いて眺められるようになります。

好きという気持ちの中に、情や不安が混ざっていないかをやさしく整理します。
好きという気持ちの中に、情や不安が混ざっていないかをやさしく整理します。

恋愛で起きやすいサンクコスト

サンクコスト効果が表に出やすい恋愛の場面は、ある程度パターンがあります。ここでは、自分の状況と重なるところがないかを確認できるよう、代表的な3つを整理します。

サンクコスト効果の例を知ることは、別れるためではなく、いまの迷いがどこから来ているのかを見直すための手がかりになります。

長く付き合って別れにくい

交際が長くなるほど、共有してきた記憶や周囲の認識も積み上がっていきます。家族や友人にも紹介済み、節目のイベントを一緒に過ごしてきた、生活のリズムが相手に合わせてできている、といった状態です。

合わなくなってきたと感じても、ここまでの時間を全部なかったことにしたくない気持ちが先に立つことがあります。別れる勇気がない自分が悪いと受け取りがちですが、これは性格の弱さではなく、長期交際で誰にでも起こりやすい心理的な働きです。

長く続いた関係ほど、気持ちだけでなく日常の距離感も判断に影響します。
長く続いた関係ほど、気持ちだけでなく日常の距離感も判断に影響します。

尽くした相手を諦めにくい

相手のために時間やお金を費やしてきた場合、そのコストを無駄にしたくないという感覚が判断に影響します。脈がはっきりしない相手、返事が遅い相手であっても、ここまで尽くしたのだからきっと意味があったはずだ、という方向に思考が向きやすくなります。

たとえば、長く片想いの延長のような関係を続けている場合、相手の態度ではなく、自分が積み重ねた努力の量で関係の価値を測ろうとしてしまうことがあります。相手から返ってきている実感より、自分が差し出してきた量のほうが大きい関係は、サンクコスト効果が働きやすい状態です。

同棲や遠距離で動けない

同棲や遠距離恋愛では、関係そのもの以外にもコストが積み上がります。家具をそろえた、契約を一緒にした、移動のために働き方を調整した、転職や引っ越しまで視野に入れた、といった現実的な要素です。

これらは判断材料の一つではありますが、関係を続けるかどうかの中心的な理由になりやすい一方で、本来の問いとは少しずれていきます。中心にあるべきは、この相手と過ごす時間が安心や尊重につながっているかどうかであり、状況的なコストはそのうえで考える周辺の要素です。

同棲や遠距離で積み上がった現実的な負担も、迷いを強める要因になります。
同棲や遠距離で積み上がった現実的な負担も、迷いを強める要因になります。

抜け出しにくくなる心理

ここでは、なぜ自分の意思では離れにくく感じるのか、その背景にある心理を整理します。仕組みが見えてくると、自分を責める気持ちが少しほぐれることがあります。

恋愛の迷いは、気合いだけで整理できるものではありません。損失回避や自己正当化のような心理が重なると、頭ではわかっているのに動けない状態が起こりやすくなります。

損を避けたい気持ち

人には、何かを得る喜びよりも、失う痛みのほうを強く感じる傾向があります。行動経済学では損失回避と呼ばれ、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンらの研究で広く知られるようになりました。

恋愛にあてはめると、相手と別れた未来の喪失感のほうが、続けた場合の疲れよりも先に意識されやすいということになります。今しんどい現実より、失ったあとの寂しさのほうを脳が大きく見積もるため、関係から離れる選択は実際以上にハードルが高く感じられます。

失う痛みが大きく見えると、今の疲れより別れた後の不安が強まりやすくなります。
失う痛みが大きく見えると、今の疲れより別れた後の不安が強まりやすくなります。

自分の選択を正当化する心

人は、自分が時間と労力をかけてきた選択について、間違っていなかったと思いたい傾向を持っています。心理学では一貫性や自己正当化の働きとして説明されるもので、自分の過去の判断を守りたい気持ちと言い換えてもよいでしょう。

恋愛では、こんなに長く一緒にいた相手だから悪い人ではないはず、ここまで関係を続けてきた自分の感覚を否定したくない、という形であらわれます。相手の言動そのものより、自分の選択を支えるための解釈が先に立ちはじめると、関係の現状が見えにくくなっていきます。

変わるかもという期待

もうひとつ働きやすいのが、相手がそのうち変わってくれるかもしれないという楽観的な期待です。今は不安定でも、結婚すれば、子どもができれば、仕事が落ち着けば、と未来のどこかに改善の根拠を置く形です。

期待自体は自然な感情ですが、変化のはっきりした兆しがないまま期待だけが続いている場合、判断の軸が現実ではなく希望側に移っている可能性があります。ここで自分を責める必要はありません。

ただ、いま見ているのが相手の現在の姿か、想像のなかの未来の姿か、一度だけでも分けて眺めてみると、自分の気持ちは少し整理しやすくなります。

期待と現実を少し離して見る時間が、今の自分に必要な選択を助けます。
期待と現実を少し離して見る時間が、今の自分に必要な選択を助けます。

心理学的に見た恋愛の対策

サンクコスト効果から完全に抜け出す方法は存在しません。ただ、判断の軸をどこに置くかを少し変えるだけで、関係の見え方は変わってきます。

ここで扱う対策は、すぐに別れるためのものではありません。過去にかけた時間や労力だけで決めないように、今後の自分に視点を戻すための方法です。

ゼロなら選ぶか考える

ひとつの視点として、もしいま自分がこの相手と一切の関わりのない状態だったとして、今日から関係を始めたいと思える人かを問い直す方法があります。ゼロベース思考と呼ばれる考え方で、もとはビジネスの意思決定で使われてきた発想です。

恋愛にそのまま当てはめると冷たく聞こえるかもしれませんが、過去の積み重ねを一度脇に置いて、今後についてだけ考えるための一時的な視点です。答えが出なくても構わず、考えている自分の感覚そのものを観察することにも意味があります。

なお、サンクコスト効果は相手にコストをかけさせて惚れさせる、依存させるといった文脈で語られることもありますが、これは関係の安心を損なう方向の使い方です。読者自身を縛りやすい考え方でもあるため、ここでは扱わない視点として置いておきます。

これからの安心を基準にすると、過去の重さだけで決めにくくなります。
これからの安心を基準にすると、過去の重さだけで決めにくくなります。

今後の安心を基準にする

別れる・続けるを軸にすると、結論を急ぐほど苦しくなります。代わりに、この関係が今後の自分の安心、尊重、心身の状態にどうつながっていくかを軸に置くと、判断の質が変わります。

最近の数週間を思い返すときは、次のような点をゆっくり確認してみてもよいでしょう。

  • 相手と過ごしたあとに眠れているか
  • 自分の意見を素直に言えているか
  • 好きなものや友人関係を続けられているか
  • 相手の機嫌を最優先にしすぎていないか

これらは一度に整理しなくてもよく、今の自分の状態を眺めるための手がかりです。判断の比重が、過去にかけたコストから、これからの自分の状態に移っていくこと自体が大切な変化になります。

第三者に状況を話す

評価せずに聞いてくれる相手に話すことで、自分の気持ちを整理しやすくなります。
評価せずに聞いてくれる相手に話すことで、自分の気持ちを整理しやすくなります。

サンクコスト効果は、当事者の中では気づきにくい心理です。だからこそ、自分の状況を信頼できる誰かに言葉にして話してみることは、対策として大きな意味を持ちます。

話す相手は、必ずしも結論を出してくれる人でなくて構いません。評価せずに聞いてくれる人、自分の感情を否定せずに受け止めてくれる人がいる場所であれば、自分の判断の偏りに気づきやすくなります。

身近に話せる相手が見当たらないとき、カウンセラーや臨床心理士、公認心理師といった専門家と話すことも選択肢の一つです。答えを与えてもらう場ではなく、自分の中にある気持ちを丁寧に並べ直す場として活用できます。

ひとりで抱え込まないために

最後に、自分の状態が我慢で乗り切れる範囲を超えていないかを確認できる視点をお伝えします。気合いや努力で対処しないほうがよい状態というのは、確かに存在します。

サンクコスト効果の恋愛かもしれないと感じるときほど、自分だけで答えを出そうとして苦しくなることがあります。ここから先は、心身の不調や関係の安全に目を向けていきます。

心身に不調が出ているとき

関係について考えると眠れない、食欲が落ちている、仕事や学業に集中できない、休日も気持ちが休まらない、といった状態が続いているときは注意が必要です。こうした不調は、判断力にも影響します。

眠れない、食べにくい、集中できない状態が続くときは、判断より回復を優先します。
眠れない、食べにくい、集中できない状態が続くときは、判断より回復を優先します。

疲れているときは、別れる・続けるの結論を出すこと自体を少し先に延ばしてよい場面でもあります。まずは生活のリズムや睡眠を取り戻すことを優先し、判断はその後で整えていく順序でも遅すぎることはありません。

もし、消えてしまいたい気持ちがある、日常生活を保つのが難しい、ひとりでいることが危ういと感じる場合は、恋愛の判断より先に安全を確保することが必要です。医療機関や地域の相談窓口、身近な信頼できる人に、今の状態を伝える選択肢を持ってください。

支配や暴言がある場合

相手から日常的に強い言葉を向けられている、外出や交友関係を制限されている、経済的に動きにくくされている、といった状況がある場合は、サンクコスト効果という枠組みで自分を納得させようとしないほうが安全です。これは恋愛の心理整理よりも、安心と安全を守る話に近づいています。

ひとりで抜け出そうとせず、信頼できる人や公的な相談窓口に状況を伝えてください。内閣府が運営するDV相談ナビなどの公的窓口は、緊急性が高くない段階からでも利用できる選択肢です。

専門家に相談してよい状態

身近な人に言いにくい段階でも、専門家に相談することは自然な選択肢です。
身近な人に言いにくい段階でも、専門家に相談することは自然な選択肢です。

考えても考えてもまとまらない、自分の感覚が信じられなくなってきた、誰かに話したいけれど身近では言いにくい、そうした段階で専門家に相談することは特別なことではありません。公認心理師など心理の専門家との対話は、答えをもらう場ではなく、混ざっている感情を一緒に並べ直していく時間として使えます。

ココラボでは、恋愛のことを誰かに話してみたいという段階からのオンラインカウンセリングをご用意しています。別れる・続けるを決める場ではなく、自分の気持ちを少し落ち着いて見直すための場として、選択肢のひとつに置いていただければと思います。

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監修者: 石川蓮(公認心理師)

公認心理師、行動心理士。1997年生まれ。北里大学・大学院卒業。その後、公認心理師と行動心理士の資格取得。
在学中は高齢者や生産人口の色覚異常や朝型夜型特性が睡眠に与える効果等の研究を行う。
大学院卒業後、大学病院附属の研究所にてカウンセリングやデータマネジメント担当として勤務。また、都立高校の心理学講師としても勤務。
「心の悩みを持つ方のそばに寄り添う」をモットーに業務遂行しております。

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