解離性健忘の恋人に何ができる?彼女として忘れられるのが耐えれない…

監修者の石川蓮(公認心理師)先生より

解離性健忘が疑われるとき、恋人だけで状況を抱え込むのは大きな負担になります。

彼女として記憶を無理に戻そうとせず、本人の安全と自分自身の心身の状態を分けて見守ることが大切です

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20代後半女性(会社員)

付き合って2年の恋人が、強いストレスをきっかけに、私のことだけ思い出せなくなりました。
昨日もいつも通りおはようとメッセージを送ったら、どなたですか、と返ってきて、しばらく画面の前から動けませんでした。

医師からは時間が経てば戻ることもあると言われましたが、本当に戻るのか、私と過ごした時間に意味はあったのか、考えるほどわからなくなります。

ココラボ相談室からの回答

大切な人から自分だけを忘れられるというのは、言葉にしづらいほど心細い経験だと思います。
そばで支えたい気持ちと、忘れられた痛みが同時にあること自体は、おかしなことではありません。

この記事では、恋人の記憶が抜けるしくみを整理しながら、どう接していくか、そして忘れられたあなた自身の心をどう守るかを、一緒に見ていきます。

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彼女として忘れられるつらさ

突然の一言に動けなくなる感覚を、日常の場面として受け止めます。
突然の一言に動けなくなる感覚を、日常の場面として受け止めます。

この章では、恋人から自分だけを忘れられたときに湧く痛みを、いったん言葉にしてみます。まだ何かを判断する前に、いま感じていることを置く場所をつくる時間です。

恋人に覚えていないと言われた痛み

昨日まで自分を見て笑っていた人が、名前を呼んでも知らない人のような顔をする。その瞬間の心細さは、なかなか他の経験に置き換えられないものです。

相手が自分のことを思い出せないと知ったとき、多くの人はまず現実を受け止めきれず、頭が真っ白になります。返事を間違えただけかもしれない、何かの勘違いかもしれないと思いたくなるのも自然な反応です。

それでも繰り返し他人のように扱われると、ふたりで積み重ねた時間そのものが消えたように感じてしまいます。あの日々に意味はあったのだろうかと考えてしまうのは、あなたがその関係を大切にしてきた証でもあります。

忘れられた痛みは、関係を大切にしてきたからこそ強く揺れます。
忘れられた痛みは、関係を大切にしてきたからこそ強く揺れます。

支えたいのに苦しくなる気持ち

そばにいたい気持ちと、忘れられて傷ついた気持ちは、同時に存在していてかまいません。どちらかが正しくて、どちらかが間違っているわけではないからです。

支えようと決めたのに、ふとした瞬間に悲しみや怒りがこみ上げ、自分の狭さを責めてしまう人もいます。けれど、近しい相手だからこそ揺れるのであって、感情が動くこと自体は弱さではありません。

苦しさを抑え込んで笑顔だけを続けようとすると、いつか息が切れてしまいます。まずは、つらいと感じている自分がいることに気づいておくだけでも、今の状態を見失いにくくなります。

恋人の記憶が抜けるしくみ

ここでは、解離性健忘の恋人が自分だけを忘れてしまう背景にある、心のしくみを整理します。理由がわかっても痛みが消えるわけではありませんが、状況を落ち着いて見るための手がかりにはなります。

物忘れや認知症との違い

解離性健忘は、つらい体験から心を守るために、記憶へのアクセスが一時的に断たれた状態だと考えられています。脳そのものが傷ついて起きる物忘れや認知症とは、性質が大きく異なります。

違いを大まかに整理すると、次のようになります。

状態起こり方の特徴見極めで大切な点
日常的な物忘れ出来事の一部を忘れることが多い体験したこと自体は覚えている場合が多い
認知症など新しいことを覚える力が徐々に低下することがある年齢、生活変化、医学的検査を含めた確認が必要
解離性健忘強いストレスや心的外傷と関連して記憶が抜ける記憶以外の生活能力が保たれる場合もある

ただし、記憶の異常の背景に、脳の病気や薬の影響などが隠れていることもあります。だからこそ受診では、必要に応じて画像検査などを通じ、他の原因がないかを確かめる手順が踏まれます。

恋人だけを忘れる場合

特定のカテゴリーの記憶だけがまとまって抜けるものは、系統的健忘と呼ばれます。恋人に関する記憶だけが思い出せなくなるのは、このタイプにあたることがあります。

これは、その人との関係に強い葛藤やストレスが結びついているとき、関連する記憶を無意識に切り離そうとする働きだと説明されます。つまり、あなたが嫌われたから忘れられた、という単純な話ではありません。

むしろ、関係が深く大切だったからこそ、そこにかかる重さが大きくなることもあります。忘れられた事実を、自分の価値や関係そのものの否定として受け取りすぎないことが、心を守るうえで役立ちます。

忘れられた事実を、自分の価値の否定として抱え込みすぎないことも大切です。
忘れられた事実を、自分の価値の否定として抱え込みすぎないことも大切です。

失恋や強いストレスとの関係

解離性健忘のきっかけは、虐待や災害のような出来事だけではありません。失恋や別れ、対人関係のストレスが引き金になることもあると説明されています。

実際に、解離性健忘と失恋を結びつけて検索する人は少なくありません。別れ際の強い言葉や、裏切られたという感覚が積み重なり、心がその記憶を抱えきれなくなることがあるためです。

恋人を失う痛みと、記憶が抜ける現象は、どちらも心の限界に対する反応という点でつながっています。相手の中で何が起きているのかは本人にも見えにくく、周囲が原因を特定するのは難しいものです。

記憶が戻るまでの見通し

解離性健忘の記憶は、数日から数か月のうちに戻る場合があるとされています。安全で落ち着ける環境に移ると、回復に向かいやすいとも言われます。

一方で、回復までの時間には個人差が大きく、一部の記憶が長く戻らないこともあります。戻る時期を約束できる人はいないため、いつ戻るかを数えながら過ごすと、かえって消耗してしまいます。

また、記憶が戻ること自体が、関係が元通りになることと同じとは限りません。回復を願う気持ちは自然ですが、見通しは穏やかに持っておくほうが、待つ側の心を守りやすくなります。

恋人にできることの境界線

この章では、忘れられた相手に対して、何をして、何をしないでおくかの線引きを整理します。良かれと思った行動が負担になることもあるため、力の入れどころを絞っていきます。

無理に思い出させない

思い出してほしくて、写真を見せたり、ふたりの出来事を細かく説明したくなるのは自然なことです。けれど、記憶を無理にこじ開けようとすると、本人がさらに苦しくなることがあります。

なぜ忘れたのかと問い詰めたり、思い出せないことを責めたりするのは、避けたい関わりです。記憶は、心の準備が整ったときに戻ってくるのを待つ姿勢のほうが、結果として双方の負担が少なくなります。

どうしても伝えたいことがあるなら、一度に全部を思い出させようとしないほうがよいでしょう。本人の反応を見ながら、今はここまでにするという止めどころを持つことも、恋人にできる支えのひとつです。

思い出させようと急ぐより、反応を見ながら止める余地を残します。
思い出させようと急ぐより、反応を見ながら止める余地を残します。

大きな決断を急がない

記憶や体調が不安定なときは、視野が狭くなり、最悪の方向で物事を考えやすくなります。そのため、別れる、辞める、引っ越すといった大きな決断は、先延ばしにするのが基本です。

これは、忘れられた側のあなたにとっても同じです。今すぐ結論を出さなければと焦らず、状態が落ち着いてから考えようと保留にしておく選択も、十分に誠実な対応です。

関係を続けるかどうかは、相手の記憶だけで決めるものではありません。あなた自身がどれくらい眠れているか、日常を保てているか、誰かに話せているかも含めて見ていく必要があります。

普段通りの安心を保つ

落ち込む相手を励まそうと、旅行に誘ったり明るく振る舞ったりと、特別なことをしたくなるかもしれません。ただ、心のエネルギーが落ちているときは、いつもの行動でも疲れてしまうことがあります。

本人にとって支えになりやすいのは、変わらない日常がそこにあることです。気負って何かをするより、いつも通りのあなたでいることのほうが、安心につながる場面は多いものです。

連絡の頻度、会う時間、話す内容も、相手の状態に合わせて少し控えめにするほうが合うことがあります。支えようとするほど近づきすぎてしまうときほど、静かな距離が必要になることもあります。

特別なことより、いつもの安心が支えになる場面もあります。
特別なことより、いつもの安心が支えになる場面もあります。

関係を続けるか迷うとき

ここでは、支え続けることと、自分が無理をしすぎることの境目を見ていきます。関係をどうするかの前に、あなた自身がいまどんな状態かを確かめる章です。

支えることと背負うこと

相手の力になりたい気持ちと、相手の回復を自分の責任として抱え込むことは、似ているようで違います。治療や回復の中心は本人と専門家にあり、あなたがすべてを背負う必要はありません。

支えるとは、相手の課題を肩代わりすることではなく、隣にいられる範囲でいることです。自分がしっかりしなければと気を張りすぎると、いつのまにか自分の生活が後回しになっていきます。

解離性健忘の恋人を支えるときほど、できることとできないことを分けておく必要があります。相手の記憶を戻すことはできなくても、責めない環境をつくることや、必要な相談先につなぐことはできます。

支える範囲を分けると、自分だけで背負いすぎる状態に気づきやすくなります。
支える範囲を分けると、自分だけで背負いすぎる状態に気づきやすくなります。

共依存に近づくサイン

相手を最優先にし続けるうちに、自分を犠牲にすることが当たり前になっていくことがあります。つらいのに離れられない状態が続くときは、距離が近づきすぎているのかもしれません。

次のような状態が重なっているときは、一度立ち止まって関係を見直す目安になります。

  • 相手に必要とされるために、無理を続けて疲れがたまっている
  • 自分の予定や友人との時間を、いつも後回しにしている
  • 相手の機嫌しだいで、自分の一日の気分が決まってしまう
  • 離れることを考えるだけで、強い罪悪感が出てくる

当てはまる項目が多いほど、支えているつもりが、お互いを縛り合う関係に近づいている可能性があります。第三者に話して、心地よい距離を探し直すことも選択肢です。

自分が限界のときの距離

眠れない、食べられない、何をしても楽しめないといった状態が続くなら、それはあなた自身が休む必要があるサインです。自分が消耗したままでは、相手を大切にする力も残りません。

少し距離を置くことは、見捨てることとは違います。心身を休めて冷静さを取り戻すための時間として、いったん離れる判断があってもかまいません。

距離を置くときは、突然消えるよりも、今の自分には休む時間が必要だと短く伝えられると、関係の混乱を少し減らせます。説明しきれないほど疲れている場合は、信頼できる人に間に入ってもらうことも考えてよいでしょう。

少し距離を置くことは、関係を投げ出すこととは違います。
少し距離を置くことは、関係を投げ出すこととは違います。

ひとりで抱え込まないために

最後に、ふたりだけで抱えきれないときに頼れる先を整理します。相談は、関係をあきらめることではなく、状況を見極めるための手立てです。

受診を勧めたい状態

落ち込みが続く、仕事や学校に行けない、生活に支障が出ているといったときは、精神科や心療内科への受診を考えたい場面です。解離性健忘そのものに効く特効薬はありませんが、不安や不眠などの併存する症状には対応できることがあります。

初めて急な記憶の混乱が起きた場合や、頭を打ったあとに記憶が抜けている場合、薬やアルコールの影響が疑われる場合も、医療機関で確認したほうが安心です。心理的な反応に見えても、身体の要因を確かめることは大切です。

本人が受診をためらうときは、一緒に探そうかと声をかけたり、付き添いを申し出たりするのもひとつの方法です。主治医から話を聞くことで、恋人としての関わり方が見えてくることもあります。

受診や付き添いは、ふたりだけで抱えないための現実的な助けになります。
受診や付き添いは、ふたりだけで抱えないための現実的な助けになります。

家族や信頼できる人との連携

解離性健忘の彼女や恋人を支える状況を、ひとりだけで抱え込む必要はありません。本人が同意できる範囲で、家族や信頼できる人と状況を共有しておくと、いざというときに動きやすくなります。

公的な相談先として、各地の精神保健福祉センターでは、本人だけでなく家族からの相談も受け付けています。どこに相談してよいか迷うときは、こころの耳のような公的な情報サイトも、最初の手がかりになります。

恋人という立場は近いようで、医療や家族の判断に入りにくい場面もあります。だからこそ、あなた一人が連絡役や支え役を背負い続けない形を、早めに考えておくことが助けになります。

すぐ相談したい危険サイン

次のような様子が見られるときは、ためらわずに専門の窓口や医療機関につながってください。緊急度が高い状態では、待つより相談を優先したほうが安全です。

  • 死にたいといった言葉が出る、または自分を傷つけようとする
  • 突然家を出て戻らない、連絡が取れなくなる
  • 食事や睡眠がとれず、生活が成り立たなくなっている
  • 強い混乱が続き、本人や周囲の安全が保ちにくい
安全に関わるサインがあるときは、待つより相談を優先します。
安全に関わるサインがあるときは、待つより相談を優先します。

こうした様子は、本人の心が限界に近づいているサインかもしれません。あなた自身が強い不安や眠れない状態を抱えているときも、同じように相談していい対象です。

解離性健忘の恋人との時間に、正解の関わり方がひとつだけあるわけではありません。相手を思う気持ちと、あなた自身の心の両方を、どちらも置き去りにしないことだけ、心の隅に置いておいてもらえたらと思います。

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監修者: 石川蓮(公認心理師)

公認心理師、行動心理士。1997年生まれ。北里大学・大学院卒業。その後、公認心理師と行動心理士の資格取得。
在学中は高齢者や生産人口の色覚異常や朝型夜型特性が睡眠に与える効果等の研究を行う。
大学院卒業後、大学病院附属の研究所にてカウンセリングやデータマネジメント担当として勤務。また、都立高校の心理学講師としても勤務。
「心の悩みを持つ方のそばに寄り添う」をモットーに業務遂行しております。

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