自傷行為をする大人の心理ってなに?原因分からず誰にも言えないまま続いてる…

監修者の石川蓮(公認心理師)先生より

大人になってからの自傷は、周りに気づかれにくく、相談先も見つけづらいテーマです。
私が現場でお会いする方も、仕事や家のことはこなせているぶん、かえって言い出せずにいることが多いですね。
やめられないのは、弱さのせいではありません。
まずは、どんなときに手が伸びてしまうのかを、一緒に見ていけたらと思います。

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ご相談ありがとうございます。

大人になっても自分を傷つけてしまう。それを誰にも言えずに抱えていると、気持ちの置きどころがなくなってきますよね。

この記事では、大人の自傷がなぜ起こり、なぜ続くのかという心理を整理しながら、今の自分の状態を静かに見つめ直すための視点をお伝えします。やめる方法を急いで探す前に、まずは何が起きているのかを一緒に見ていきます。

大人になっても自傷が続くのは、おかしいことではありません

この章では、大人の自傷にまとわりつく誤解を先にほどいていきます。まだ結論は出しません。今の自分を責める材料を、一つずつ減らすところから始めます。

「かまってほしいだけ」ではないという事実

自傷と聞くと、周りの気を引くための行為だと受け取られがちです。けれど実際には、その多くは誰にも見られない場所で、一人きりのときに起きています。

全国規模の調査をもとにした報告でも、自傷のおよそ9割以上は誰にも知られない状況で行われていたとされています。アピールという見方は、当事者の苦しさをかえって覆い隠してしまいます。

大人になってからの自傷なら、隠す技術はさらに上がっていて、家族さえ気づいていないことも珍しくありません。そしてじつは、いちばん負担になっているのは行為そのものより、つらいときに誰にも言えないこと、という指摘もあります。

自傷を隠して抱える背景には生き延びるための対処があり、続いていることは意志の弱さを意味しません。
自傷を隠して抱える背景には生き延びるための対処があり、続いていることは意志の弱さを意味しません。

死ぬためではなく、生き延びるための行為

自傷は、死のうとする行為とは性質が違います。多くの場合、あふれる怒りや悲しみ、空っぽな感覚を、その場でなんとか鎮めるために選ばれています。

つまり、つらい状況を生き延びるための応急処置に近いものなんです。ただ、死ぬためではないからといって、軽く扱ってよいわけではありません。 背景には、それだけの痛みが確かにあるからです。

やめられないのは意志の弱さではない

何年も続いていると、やめられない自分を意志が弱いせいだと責めたくなります。でも、自傷には実際につらさを和らげる働きがあり、効くからこそ手放しにくいのです。

ここは、大人の自傷の心理を理解するうえで外せないところ。やめられなさは、弱さではなく、他の逃し方をまだ持てていないことのあらわれです。

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自傷で一時的に楽になるのはなぜか

楽になる仕組みを知ると、自分の中で起きていることに少し距離が取れます。ここでは、自傷行為がなぜ起こるのかを、心と体の両面から見ていきます。

楽になる仕組みを知り、呼吸を整えながら感情から少し距離を取ることは、自分を責めずに状態を見る助けになります。
楽になる仕組みを知り、呼吸を整えながら感情から少し距離を取ることは、自分を責めずに状態を見る助けになります。

心と体の中で起きていること

自傷の直後には、脳内で鎮痛にかかわる物質の分泌が高まると指摘されています。エンドルフィンやエンケファリンと呼ばれる、脳内麻薬様物質です。

これが、張りつめていた感情のスイッチを一瞬だけ切り替えてくれます。痛みそのもので気持ちを鎮めるというより、痛みをきっかけに感情の波が引いていく感覚に近いのです。

だからその瞬間だけは、また呼吸ができるようになります。ある精神科医は、この状態を骨折にたとえています。折れた骨をそのままにして、強い痛み止めだけを使うようなもの、という説明です。痛みは引いても骨はつながらず、やがて薬の量が増えていく。自傷の効き目にも、それと同じことが起こると言われています。

張りつめた感情が一時的に和らいでも、つらさが戻り、同じ対処が効きにくくなる循環が起こることがあります。
張りつめた感情が一時的に和らいでも、つらさが戻り、同じ対処が効きにくくなる循環が起こることがあります。

繰り返すほど効かなくなっていく耐性

やっかいなのは、この効き目が長続きしないことです。根っこの問題は残ったままなので、つらさはまた戻ってきます。

しかも繰り返すうちに慣れが生じ、以前と同じだけ楽になるのに回数が増えたり、傷が深くなったり、切る場所が広がったりしていきます。最初は追い詰められた末の選択だったものが、いつのまにか日常の癒し方に変わってしまう。

この流れは、依存が形づくられていく過程とよく似ています。行き着く先で、切ってもつらさは和らがないのに、切らないともっとつらい、という感覚に変わっていくこともあります。そうなる前に、今の自分がどのあたりにいるのかを知っておくことには意味があります。

大人の自傷に多い2つの型と背景

大人の自傷には、始まり方の違う型があると考えられています。自傷行為の原因を大人の文脈でほどくために、まずは自分がどちらに近いかを眺めてみます。

思春期から続いている型と、大人になって始まった型

成人期の自傷には、大きく二つの入り口があるといわれています。一つは思春期に始まり、そのまま続いてきた型。もう一つは、大人になってから始まった、あるいは一度おさまったものが再燃した型です。

始まり方よく重なる背景
思春期から続く型10代で始まり習慣として残る家庭や学校での傷つき、慣れによる常態化
大人で始まる・再発する型就職・結婚・出産などのあとに現れる役割の過負荷、余裕ができて過去が浮上

どちらが良い悪いという話ではありません。自分がどの入り口から来たのかが見えると、責める矛先が自分自身から状況のほうへ移りやすくなります。

思春期から続く場合も大人になって始まる場合も、良し悪しではなく、自分の背景を理解するための違いとして見ていきます。
思春期から続く場合も大人になって始まる場合も、良し悪しではなく、自分の背景を理解するための違いとして見ていきます。

仕事・育児・パートナー・過去のつらさ

大人の自傷は、生活の重なりの中で起こります。仕事の負荷、育児や介護、パートナーとの関係。そして、子どもが手を離れて自分と向き合う時間ができたとき、見ずに済んでいた過去がふいに浮かび上がることもあります。

仕事や家族の役割を保ちながら誰にも言えないつらさを抱えることが、大人ならではの消耗につながります。
仕事や家族の役割を保ちながら誰にも言えないつらさを抱えることが、大人ならではの消耗につながります。

余裕ができたからこそ、しまっていたつらさが動き出す。 これは弱さではなく、心が回復に向かう途中で起きる自然な揺れでもあります。

傷跡・服装・通院時間という生活上の負担

大人であることそのものが、相談のハードルになります。傷跡を隠せる服を選ぶ、半袖の季節に神経を使う、通院の時間をやりくりする、家族に知られないようにする。

こうした見えない気づかいの積み重ねが、行為そのもの以上に消耗を生んでいることがあります。 大人の自傷がしんどいのは、抱えながら役割もこなさなければならないからです。

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今の自分の状態を確かめるための視点

ここからは、やめる話ではなく、今の状態を静かに測る視点です。良し悪しを判定するのではなく、負担が重くなっていないかを自分で見るための材料にしてください。

応急処置として効いている段階かを見る

一つの目安は、自傷が今も応急処置として効いているのか、それとも効きにくくなってきているのかです。切っても以前ほど楽にならない、それでもやめられない、という感覚が出てきたら、負担が増しているサインかもしれません。

回数や深さ、傷の位置が以前と変わってきていないかも、静かに見ておきたいところです。 生活が普通に回っていることは、必ずしも大丈夫の証拠にはなりません。今の均衡が、自分の頑張りだけで支えられている状態だと、環境が少し変わっただけで揺らぐことがあるからです。

以前ほど楽にならない、方法が増えた、生活が苦しいという変化は、負担が重くなっているサインとして静かに確認できます。
以前ほど楽にならない、方法が増えた、生活が苦しいという変化は、負担が重くなっているサインとして静かに確認できます。

過量服薬・飲酒・過食が重なっていないか

自傷は、ほかの行動と重なると意味合いが変わります。薬を決められた量を超えて飲む、飲酒が増える、食べ吐きが加わる。

方法が増えたり移り変わったりすることは、危険度が一段上がったサインと考えられています。 こうした重なりに気づいたら、自分だけで抱える段階は過ぎていると受け取ってよいと思います。

関連しうる心の不調や特性(決めつけずに)

自傷の背景に、うつや不安、過去のつらい体験の影響、発達の特性などが関わっていることがあります。ただし、自傷しているから何かの病気だ、と単純には言えません。

大切なのは診断名を自分に当てはめることではなく、眠れているか、日常が回っているかといった、暮らしの手ざわりに目を向けることです。 見立ては、診察の場で専門家と一緒に確かめれば十分です。

一人で抱えないためにできることと相談先

最後に、今日から試せる関わり方と相談先を整理します。急いで答えを出す必要はありません。できそうなものから、一つだけ選んでみてください。

やめる約束より、衝動のパターンを観察する

今日からやめる、と自分に約束すると、破ったときの自己嫌悪が次の衝動を呼びます。だからまずは、やめる側ではなく、見る側に回ります。

落ち着いている時間に引き金を短く記録すると、衝動と自分との間に小さなすき間を作りやすくなります。
落ち着いている時間に引き金を短く記録すると、衝動と自分との間に小さなすき間を作りやすくなります。

いつ、どんなときに手が伸びるのか。対人か、評価か、孤独か、疲れか。引き金が見えてくるだけで、衝動と自分との間に、わずかなすき間が生まれます。 ノートにひとことでも十分です。

穏やかなときに試せる、生活に合う工夫

衝動をそらす方法には、氷を握る、輪ゴムをはじくといった刺激的なものと、ゆっくり呼吸する、感情を言葉にして書き出すといった穏やかなものがあります。前者はすぐ効くぶん慣れやすく、後者は続けるほど安定します。

大事なのは、衝動が来てから探すのではなく、落ち着いているときに自分に合うものを見つけておくことです。 深夜は気持ちの揺れが大きくなりやすいので、その時間の過ごし方も一つの工夫になります。

相談先の種類と、何をどこまで話すか

相談先は一つではありません。話す相手は、最後まで聞いてくれて、急に態度を変えない人を選べると、少し安心できます。

  • 精神科・心療内科(背景にある不調も一緒に整理できる)
  • 自治体の精神保健福祉センター(受診の前に相談したいとき)
  • 公的な電話・SNS相談(匿名で、まず声に出したいとき)
  • カウンセリング(話せる場所を一つ増やす目的で)
すべてを一度に打ち明けず、話す内容と相手を選び、複数の相談先に支えを分けてもかまいません。
すべてを一度に打ち明けず、話す内容と相手を選び、複数の相談先に支えを分けてもかまいません。

話すときは、相手・タイミング・内容の三つを少し選べると楽になります。落ち着いているときに、まずは困っていることを一つだけ、様子を見ながら伝える。深いところまで一度に話しきらなくてかまいません。細い相談先をいくつか持つほうが、一つの関係に負荷が集中せずにすみます。

全部を打ち明ける相手が見つからなくても大丈夫です。窓口は、厚生労働省のまもろうよ こころからも探せます。

受診を考える目安と、緊急のときの対応

自分の工夫では衝動を抑えられなくなってきたとき、役割を保つために自傷が欠かせなくなっているとき、誰にも言えない状態が長く続いているとき。これらは、専門家とつながることを考えてよいサインです。

傷が深い、出血が止まらないなど体の危険があるときは、ためらわず救急(119)を使ってください。 やめられたかどうかより、つらいときに誰かを頼れたかどうか。その一点を、これからの自分を測る軸にしてもらえたらと思います。

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監修者: 石川蓮(公認心理師)

公認心理師、行動心理士。1997年生まれ。北里大学・大学院卒業。その後、公認心理師と行動心理士の資格取得。
在学中は高齢者や生産人口の色覚異常や朝型夜型特性が睡眠に与える効果等の研究を行う。
大学院卒業後、大学病院附属の研究所にてカウンセリングやデータマネジメント担当として勤務。また、都立高校の心理学講師としても勤務。
「心の悩みを持つ方のそばに寄り添う」をモットーに業務遂行しております。

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