失感情症はなぜ起こるのですか?生まれつきなのかストレスのせいなのか…
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監修者の石川蓮(公認心理師)先生より
感情がわからないのは生まれつきか、ストレスのせいか。
どちらかに決めたくなりますよね。
でも実際は両方が絡むことも多くて、はっきり分けきれないほうが自然なんです。
原因を一つに突き止めるより、今あなたに何が起きているかを一緒に見ていけたらと思います。
焦らなくて大丈夫ですよ。
30代女性(会社員・公務員)
昔から感情の起伏が薄いね、と言われることが多くて。
先日も同僚の送別会で、周りがみんな涙ぐんでいるのに、自分だけ気持ちが動かなくて、その場で戸惑ってしまいました。
これは生まれつきの性格なのか、最近の仕事の疲れやストレスのせいなのか。原因が一つに絞れないまま、ずっともやもやしています。
ココラボ相談室からの回答
ご相談ありがとうございます。
感情がわからないのは生まれつきなのか、後からなのか。原因を一つに決めきれないまま調べている方は、決して少なくありません。
この記事では、失感情症が起こる先天的・後天的な要因を整理しながら、ご自身の感じにくさがどのあたりから来ていそうかを、責めずにたどっていく見方をお伝えします。
「感情がわからないのは自分のせい」と思わなくていい
感情が動かないと、自分の努力や性格に問題があるように思えてきます。まずはその感覚を、少し違う角度から見直すところから始めます。ここでは、失感情症がどういう状態を指すのかを整理します。
感情がないのではなく気づきにくい状態
失感情症という言葉を見ると、感情そのものを失っているように受け取れます。けれど実際は、感情が存在しないわけではありません。
体は反応しているのに、それが何という気持ちなのかを捉えにくい。喜びや悲しみは生じていても、自分でうまく名づけられない状態に近いです。
感情がないのではなく、感情に気づきにくく、言葉にしにくい。これがこの特性の中心にあります。冷たい人だと誤解されやすいのも、そのためです。

失感情症(アレキシサイミア)という特性
失感情症はアレキシサイミアとも呼ばれ、感情を表す言葉が乏しいという語源を持ちます。1970年代に心身症の研究から提唱された心理学的な概念で、正式な病名ではありません。
一般の人のおよそ1割にこの傾向が見られるという報告もあり、決して珍しいものではないとされています。あなただけに起きている特別な異変ではない、とまず知っておいてください。
病気ではなく特性として捉えられるため、日常生活に大きな支障がなければ、必ず治療が要るわけでもありません。
感情鈍麻や一時的な麻痺との違い
似た状態に、感情鈍麻や感情の麻痺と呼ばれるものがあります。強いストレスやつらい出来事のあと、心を守るために一時的に感じにくくなる反応です。

失感情症が昔からの傾向であるのに対し、鈍麻はある時期から感じ方が変わったという実感を伴いやすい点が異なります。離人感やアンヘドニア(楽しめなさ)という言葉で語られることもあります。
この違いは、原因を考えるうえで大切な入口になります。次の章で、先天と後天の両面から見ていきます。
監修者の石川蓮(公認心理師)先生に相談してみませんか?
失感情症が起こる先天・後天の要因
失感情症の原因は一つに特定されておらず、生まれ持った要因と、育つ過程や環境の影響が複雑に絡むと考えられています。ここでは先天・後天・ストレスに分け、そのうえで自分がどこから来ていそうかを見分ける手がかりまで整理します。
生まれつき関わる脳・遺伝・発達特性
先天的な要因として、感情の処理に関わる脳の働き方の違いが指摘されています。扁桃体や前帯状皮質といった部位の機能差、あるいは遺伝的な要素が関わる可能性があるとされます。
発達特性との重なりも知られています。とくに自閉スペクトラム症(ASD)では、その半数ほどに失感情の傾向が重なるという研究報告もあります。ただし重なりやすいだけで、失感情症がそのまま発達障害を意味するわけではありません。
生まれつきの場合、子どもの頃から感じ方が一貫していて、あるとき変わったという感覚が薄いのが特徴です。

育つ過程での環境・愛着・トラウマ
後天的な要因では、育ってきた環境の影響が挙げられます。感情を言葉にする機会が少ない家庭で育つと、気持ちに注意を向けない習慣が身につくことがあります。
虐待やネグレクトのような強い体験だけが原因になるわけではありません。気持ちを話すと困った顔をされた、我慢を求められ続けた、といった日常的な積み重ねも含まれます。
事故や災害、深く傷ついた出来事のあと、防衛反応として感じにくくなることもあります。これはPTSDの感情麻痺として知られる反応で、後天的なきっかけが背景にあるサインとも言えます。
ストレスで傾向が強まる仕組み
もともとの傾向は、強いストレスや過労、気分の落ち込みが続くときに、一時的に強く出ることがあります。この場合、体調が整うにつれて元の程度に戻っていくことが多いです。
やっかいなのは、失感情の傾向があるとストレス自体にも気づきにくいことです。気づきにくさがストレスをため、そのストレスがさらに感じにくさを強めるという循環が起こりやすくなります。疲れの信号を受け取れないまま無理を重ね、体を壊してから気づく、ということも起こります。

昔からか途中からかを見分ける手がかり
自分の場合が生まれつきなのか、ストレスや後天的な変化なのか。ここは、原因を考えるうえでいちばん知りたいところかもしれません。次の目安が手がかりになります。
| 見分ける視点 | 生まれつきの傾向 | ある時期からの変化 |
|---|---|---|
| いつからか | 子どもの頃から一貫している | 以前は感じられていた実感がある |
| 困っているのは | 周囲が先に気づきやすい | 本人が違和感やつらさを感じる |
| 起きていること | 感じてはいるが言葉にならない | 反応そのものが小さくなっている |
どちらか片方にきれいに分かれないこともあります。当てはまりを見比べること自体が、自分の状態を知る材料になります。
原因を決めつける前に確かめたいこと
原因を一つに決めてしまう前に、確かめておきたい点があります。体の不調や別の状態が背景に隠れていることもあるためです。ここでは、早合点や自己診断を避けるための視点を整理します。
頭痛や胃痛など体に出る不調
感情が言葉にならないぶん、ストレスが体のほうに回りやすくなります。頭痛や胃痛、動悸、めまい、倦怠感といった不調が続くのに、検査では異常が見つからないことがあります。
心当たりがないまま体調だけが崩れるときは、体の症状が感情への入口になることがあります。どんな場面で胃が重くなるかをたどると、隠れていた負担が見えてくる場合もあります。
うつ病や抗うつ薬による感情の平板化
感情を感じにくい状態は、失感情症だけで起きるとは限りません。うつ病では、楽しめていたことに興味がわかないアンヘドニアが現れ、感情が平板になることがあります。

見落とされやすいのが薬の影響です。一部の抗うつ薬で、感情が平坦に感じられることがあると指摘されています。心当たりがあっても自己判断で中断せず、処方した医師に相談することが安全です。
TAS-20と専門家による見立て
失感情症の傾向は、TAS-20(トロント・アレキシサイミア尺度)という質問紙で評価されることがあります。感情の同定困難、感情の伝達困難、外的志向的思考という三つの側面から傾向を測る枠組みです。
ただし、点数だけで自分を決めつけないことが大切です。セルフチェックはきっかけにとどめ、確定的な見立ては専門家の解釈に委ねるのが適切とされています。
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原因がわからなくても今日からできること
原因がはっきり解明されていないのは、多くの記事が触れているとおりです。ただ、原因が特定できなくても、困りごとを減らす手立てはあります。ここでは、感情に気づきにくい人に合った、無理のない入口をお伝えします。
感情語を使わず出来事と体からたどる
感情日記が勧められることは多いのですが、感情そのものが書けないと、そこでつまずいてしまいます。そこで、気持ちではなく、出来事と体の様子から書き始める方法があります。
今日あったことと、そのとき体がどうだったか。肩がこった、眠りが浅かった、といった記録で十分です。続けるうちに、ある種の出来事のあとに決まって体が反応する、というつながりが見えてきます。

育ちが原因と感じたときの心の置き場所
原因をたどるうちに、家庭環境や育ちに行き着くことがあります。そのとき、親への怒りや悲しみ、自分を責める気持ちがわいてくるのは、自然な反応です。
大切なのは、原因の特定をゴールにしないことです。原因探しは、誰かを責めるためでも自分を罰するためでもなく、自分の扱い方を知るための材料にすぎません。親を許すか距離を置くかは、あなたが決めてよいことです。
「治す」より気づく手がかりを増やす
失感情症は、無くすというより付き合っていく特性として捉えられています。感情豊かにならなければ、と自分に課す必要はありません。
目指すのは、状態に気づく手がかりを少しずつ増やすことです。感情に頼らず自分を守るために、客観的な目安を先に決めておくのも一つの方法です。睡眠時間が一定を下回ったら休む、と決めておくと、感じ取れなくても限界に気づけます。
一人で抱えず相談してよいサイン
特性そのものは、必ずしも治療の対象ではありません。それでも、抱え込まないほうがよい状態はあります。ここでは、相談を考えてよい目安と、頼れる窓口をお伝えします。
受診を考えてよい目安
次のような状態が続くときは、一人で抱えず相談を検討してみてください。

- 原因のはっきりしない体の不調が続いている
- 気づかないうちに無理を重ね、体調を崩すことを繰り返している
- 気分の落ち込みや不眠をともなっている
- 以前は感じられていたのに、という変化の実感がある
これらが二週間以上続く場合は、感じ方の背景に別の状態が隠れていることもあります。受診のときは、うまく話せなくて構いません。体の様子や出来事から、一緒にたどっていけます。
緊急時に頼れる公的窓口
消えてしまいたいという考えがふと浮かんだときは、はっきりした理由が思いつかなくても、早めに声をかけてください。感じ取りにくいぶん、限界に近づいても自覚しにくいことがあります。
医療機関の前に、公的な相談窓口を使うこともできます。こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)やよりそいホットライン、厚生労働省のまもろうよ こころでは、電話やSNSでの相談先がまとまっています。
原因を一つに決めきれなくても、大丈夫です。わからないという感覚は、自分に関心を向け始めたしるしでもあります。今日たどれたぶんだけで、十分に足ります。