嘔吐恐怖症でも保育士になれますか?子どもが吐いたとき逃げてしまいそうで怖いです

監修者の石川蓮(公認心理師)先生より

嘔吐が苦手なのに保育の道へ、と気後れしていませんか。

現場では、吐いた瞬間を一人で抱えず周りの先生に頼る人も実際にいます。

怖さの強さと、続けていけるかは必ずしも重ならないんですよね。

まずはどんな時に不安になるのか、そこから一緒に見ていけたらと思います。

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10代女性(学生)

高校3年生です。

小さい頃から保育士になるのが夢でした。

でも職業体験で吐きそうな子を前にした瞬間、耳をふさいで後ずさりしてしまって。

その子に申し訳なかったし、こんな自分が目指していいのかと、進路希望の紙が書けないままです。

ココラボ相談室からの回答

ご相談ありがとうございます。

吐きそうな場面から逃げてしまった自分を、責め続けているのかもしれません。好きな気持ちと怖さがぶつかって、身動きが取れなくなりますよね。

この記事では、嘔吐恐怖症とはどんな反応なのかを整理しながら、保育の現場で実際にどう対応されているのか、そして目指すか調整するかを自分で選ぶための見方を、一緒に考えていきます。

子どもが吐く場面が怖くて逃げたくなるあなたへ

まず、逃げたくなった自分を責めているその気持ちから受け止めさせてください。ここでは、嘔吐恐怖症という反応がどういうものかを、少しだけ言葉にしていきます。

吐きそうな子から後退りしてしまう自責をほどく

吐きそうと言った子から、とっさに耳をふさいで後ずさりしてしまう。その後で、体調の悪い子に何てことをしたんだろうと落ち込む人は少なくありません。

頭では守ってあげたいのに、体が勝手に反応してしまう。この二つが食い違うほど、自分は保育に向いていないという結論に飛びつきやすくなります。

でも、その反応は意思の弱さではありません。怖い場面から距離を取ろうとするのは、不安を感じたときに体が自動で働かせる防御の仕組みです。子どもを大事に思う気持ちと、怖さでとっさに動いた体は、切り離して見てあげていいものだと思います。

子どもを守りたい気持ちと体の防御反応を分けると、自責だけで自分を判断せずに済みます。
子どもを守りたい気持ちと体の防御反応を分けると、自責だけで自分を判断せずに済みます。

嘔吐恐怖症は予期不安と回避で強まる反応

嘔吐恐怖症は、専門的には限局性恐怖症という不安症の一つとして整理されることがあります。吐くことや、誰かが吐く場面に強い恐怖を感じ、その状況を避けようとして生活に支障が出る状態を指します。

特徴的なのは、実際に吐く前の段階で不安がふくらむ予期不安です。気持ち悪くなったらどうしよう、という考えが頭を占めて、その場から離れたくなるんですよね。吐くのが怖い、気持ち悪い感覚が押し寄せる、といった訴えの背景には、たいていこの予期不安があります。

うららか相談室などの解説でも、恐怖を感じる場面で実際に吐いてしまうことはほとんどないと説明されています。つまり、頭の中で想像している最悪の場面と、現実に起きることのあいだには、しばしば大きなずれがあるわけです。

ここで知っておきたいのは、避けるほどその場面の怖さはむしろ強まりやすいという点です。逃げると一時的に楽になるぶん、怖さがやわらぐ経験を積む機会を失っていきます。今のあなたの辛さは、性格ではなくこの仕組みが働いた結果とも言えます。

予期不安と回避の仕組みを知ることは、怖さを性格の弱さと結びつけないための助けになります。
予期不安と回避の仕組みを知ることは、怖さを性格の弱さと結びつけないための助けになります。
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嘔吐恐怖症でも保育士になれるのか続けられるのか

一番知りたいのは、この恐怖症を抱えたまま保育士になれるのか、続けられるのかだと思います。断定はできませんが、現場の実態から見通しを立てていきます。

現場で子どもの嘔吐は毎日ではない実態

保育の仕事に嘔吐対応が含まれるのは事実です。ただ、実際に元保育士が語る現場では、子どもが吐く場面は毎日起こるわけではないという声が多く聞かれます。

感染症が流行る時期に増えることはあっても、通常はそこまで頻繁ではありません。吐くほど具合が悪ければ、その子は登園せず家で休むことも多いからです。

もちろん個人差はあり、乳児クラスや流行期は対応が増えます。それでも、毎日吐しゃ物と向き合い続ける仕事だと思い込んでいると、実態以上に恐ろしく見えてしまう。まず頻度の現実を知ることが、ふくらみすぎた不安をほどく手がかりになります。

毎日起こると決めつけず、時期やクラスによる違いを含めて現場の実態を確かめていきます。
毎日起こると決めつけず、時期やクラスによる違いを含めて現場の実態を確かめていきます。

他の先生や看護師と役割分担して乗り切る

保育は一人で抱える仕事ではありません。実際に、吐いた子が出た場面では、ペアの保育士や園の看護師と役割を分け合って対処するやり方が現場では取られています。

たとえばある新人保育士は、初めて子どもが吐いたとき看護師を呼び、処理は別の先生に任せ、自分は着替えの介助に回ったと振り返っています。すべてを一人で担わなくても、保育は回っていきます。

苦手な部分を正直に伝え、頼れるところは頼る。それは責任放棄ではなく、チームで子どもを守るための現実的な段取りです。自分が担える役割から関わるという発想は、続けられるかを考えるうえで大きな支えになります。

先生を呼び、役割を分け、自分ができる対応を担うこともチームで子どもを守る方法です。
先生を呼び、役割を分け、自分ができる対応を担うこともチームで子どもを守る方法です。

新卒で嘔吐恐怖症を抱えたまま働き始めた保育士が、ドバっと吐く瞬間を見ても意外と平気だった、と書き残していることもあります。想像の中でふくらんでいた怖さと、実際に体験したときの感覚が違っていた、という声です。もちろん誰にでも当てはまるわけではありませんが、やってみるまで分からない部分が残るのも確かだと思います。

克服の可能性と心理療法でできること

怖さそのものを和らげたい人のために、克服の可能性と、心理療法でできることに触れます。ここでも、無理に急がせる話ではありません。

曝露療法や認知行動療法の基礎

嘔吐恐怖症を含む限局性恐怖症では、曝露療法(エクスポージャー)と呼ばれる方法が用いられることがあります。怖い対象に段階的に慣れていき、不安が自然に下がる経験を積み重ねる進め方です。

あわせて使われるのが認知行動療法です。吐いたら大変なことになる、という極端な考えを、現実的な見方へ整えていく作業を、専門家と一緒に行います。

大事なのは、いきなり一番怖い場面へ飛び込むものではないという点です。軽い話を聞く、写真を見るといった小さな段から始めて、無理のない範囲で進めるのが基本になります。焦らずに扱えるテーマだと知るだけでも、少し肩の力が抜けるかもしれません。

専門家と相談しながら小さな段階から進めることで、無理に怖い場面へ飛び込まずに取り組めます。
専門家と相談しながら小さな段階から進めることで、無理に怖い場面へ飛び込まずに取り組めます。

無理に一人で克服しようとしない

克服という言葉は、一人で頑張って乗り越えるイメージを持たせがちです。けれど、恐怖症への取り組みは、独学で追い込むほど不安が空回りしやすい領域でもあります。

自己流で怖い場面に無理やり飛び込むと、かえって恐怖が強く刻まれてしまうこともあるんです。進み方の設計は、専門家と組んだほうが安全だと考えています。

治すことを保育士になる条件にしなくてもかまいません。慣れは、関わり続けるうちに結果としてついてくることもあります。今すぐ完璧に克服しなければ、と自分を追い立てなくていいと思います。

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克服だけでなく働き方で調整する選択肢

保育に関わる道は、正規の保育士一本ではありません。克服を目指す以外に、働き方や環境で折り合いをつける選択肢も並べて見ていきます。

幼稚園やベビーシッターなど多様な関わり方

子どもと関わる仕事は、思っているより幅があります。幼稚園教諭、ベビーシッター、障害児保育、児童発達支援、学童保育など、環境や年齢層の異なる関わり方がいくつもあります。

保育園だけでなく、幼稚園や学童保育など年齢層や環境が異なる選択肢も並べて考えられます。
保育園だけでなく、幼稚園や学童保育など年齢層や環境が異なる選択肢も並べて考えられます。

たとえば幼稚園は保育園より子どもの年齢層が上がるぶん、乳児特有の嘔吐対応は相対的に減る傾向があります。マンツーマン中心のベビーシッターなら、集団特有の負担を抑えやすい面もあります。

どれが正解ということではありません。同じ資格でも、置かれる環境によって嘔吐と向き合う頻度は変わる。この幅を知っておくと、夢か断念かの二択で考えずに済みます。

園長への相談と配属や環境の選び方

就職や実習の段階で、自分の状態を園長や採用担当に伝えておく方法もあります。先に共有しておくと、配属クラスやサポート体制で配慮を受けやすくなることがあります。

言い出しにくいと感じるのは自然です。ただ、隠したまま無理を重ねるより、頼れる土台を先に作っておくほうが、結果的に長く続けやすくなります。

すべてを打ち明ける必要はなく、苦手な場面と助けてほしい形を具体的に伝えるだけでも十分です。環境は、自分で選んで整えていけるものだと考えておきたいところです。

苦手な場面と助けてほしい形を具体的に伝えると、続けやすい配属や支援体制を相談しやすくなります。
苦手な場面と助けてほしい形を具体的に伝えると、続けやすい配属や支援体制を相談しやすくなります。

克服と調整と別の道を等価に考える判断軸

ここまでの選択肢は、どれかが上でどれかが下ということではありません。克服を目指す、働き方で調整する、別の関わり方を選ぶ。この三つを同じ高さに並べて、今の自分に合うものを選ぶという見方が軸になります。

諦めないことだけが正解ではないし、方向を変えることも後退ではありません。大切なのは、怖さに追い込まれた状態のまま決めてしまわないことです。

自分がどの場面までなら関われそうか、何があれば安心して働けそうか。その手応えを確かめながら、選び直していい。判断の主導権は、いつでもあなたの側にあります。

一人で抱え込まず相談する目安と窓口

最後に、不安が大きくなりすぎたときのために、相談の目安と窓口を整理します。抱え込まずに済む選択肢として受け取ってください。

生活に支障が出たときの受診サイン

不安が進路の悩みを超えて、日常に食い込んでいるときは、専門家の力を借りる目安と考えられます。手がかりになりやすいのは、次のような状態です。

  • 電車や食事など、嘔吐と直接関係ない場面まで避けるようになっている
  • 気持ち悪くなる不安で動悸が続き、考えが止まらない
  • 眠れない、食べられない日が続いている
避ける場面が増え、動悸や睡眠・食事への影響が続くときは、一人で抱えず相談を考える目安です。
避ける場面が増え、動悸や睡眠・食事への影響が続くときは、一人で抱えず相談を考える目安です。

これらが重なっているなら、一人で持ちこたえようとしなくていい段階です。生活のしづらさが広がっているかどうかが、相談を考えるひとつの目印になります。

公認心理師などに相談できる場所

相談先は、医療機関だけではありません。精神科や心療内科のほか、公認心理師や臨床心理士によるカウンセリングでも、恐怖症や不安の整理に取り組めます。

どこから動けばいいか迷うときは、公的な相談窓口を入り口にする方法もあります。厚生労働省のこころの耳では、心の不調に関する相談先の案内を無料で確認できます。

保育士になりたいと願うこと自体は、何も間違っていません。怖さの扱い方を一緒に考えてくれる人を見つけながら、あなたのペースで進める道を探していけたらと思います。

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監修者: 石川蓮(公認心理師)

公認心理師、行動心理士。1997年生まれ。北里大学・大学院卒業。その後、公認心理師と行動心理士の資格取得。
在学中は高齢者や生産人口の色覚異常や朝型夜型特性が睡眠に与える効果等の研究を行う。
大学院卒業後、大学病院附属の研究所にてカウンセリングやデータマネジメント担当として勤務。また、都立高校の心理学講師としても勤務。
「心の悩みを持つ方のそばに寄り添う」をモットーに業務遂行しております。

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