対人恐怖症はトラウマから始まりますか?昔いじめられてから人の目が怖いままです

監修者の石川蓮(公認心理師)先生より

人の目が怖い、その感覚が昔のいじめと地続きなのかもしれない。
そう感じている方は、思っているよりずっと多いんです。
引きずるのは弱さではなくて、それだけ痛い体験だったということ。
今日はほんの少し、当時の自分をねぎらう気持ちで読んでもらえたらと思います。

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30代男性(会社員)

中学でいじめられてから、十年以上たつのに人の視線がこわいままなんです。

会議で目が合うと頭が真っ白になるし、休憩室に人がいると入れずに引き返してしまう。

もう昔のことなのに引きずる自分が情けなくて、誰にも言えていません。

ココラボ相談室からの回答

ご相談ありがとうございます。

人の視線が怖い、その感覚が何年も消えないと、自分の弱さのように感じてしまいますよね。昔の出来事と今の怖さがつながることは、めずらしくありません。

ここでは、対人恐怖症とトラウマの関わりや、いじめの記憶が今の対人場面でどう出てくるのかを、少しずつ整理します。自分の状態を見る手がかりが増えれば十分です。

昔いじめられてから人の目が怖いままのあなたへ

人の視線が怖いという感覚は、気持ちの持ちようだけではどうにもならないことがあります。ここではまず、その怖さを抱えたままの今の状態を、責めずに見ていくところから始めます。原因を突き止める前に、今あなたに起きていることをことばにしてみましょう。

「もう終わったことなのに」と自分を責めなくていい

いじめの記憶が何年も残り、今も人が怖い。そんなとき、多くの人が「もう昔のことなのに」と自分を追い込みます。

周囲から「そんな昔のこと」「気にしすぎだよ」と言われて、よけいに口を閉ざしてしまう人も少なくありません。精神科医の斎藤環氏は、いじめ被害を打ち明けにくくさせているのは、こうした二次的な傷つきだと指摘しています(朝日新聞デジタル)。

引きずっているのは、あなたが弱いからではありません。記憶がいまも生々しいのは、それだけ強い体験だったというサインだと考えられます。

昔の出来事だと自分を責めず、今も痛みが残るほど強い体験だったと捉えてみましょう。
昔の出来事だと自分を責めず、今も痛みが残るほど強い体験だったと捉えてみましょう。

引きずるのは弱さではなく安全がまだ戻っていないサイン

過去のつらい体験を今も思い出すのは、心が危険を覚えていて、もう傷つかないように守ろうとしているためです。

体がこわばる、動悸がする、その場から逃げたくなる。こうした反応は、おかしいのではなく、防御のしくみが過剰に働いている状態に近いといえます。

引きずる自分を責めるより、まだ安全だと感じきれていないだけ、と捉え直すほうが、次の一歩を考えやすくなります。

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対人恐怖症と社交不安症の違い、トラウマはどう関わるのか

対人恐怖症という言葉と、医療機関で使われる社交不安症は、少し意味が違います。ここでは両者の関係を整理し、トラウマがどう関わるのかを見ていきます。まずは症状の輪郭からたどってみましょう。

対人恐怖症の主な症状(視線・赤面・会食・動悸など)

対人恐怖症は、人からどう見られるかが過度に気になり、対人場面を避けてしまう状態を指します。日本で古くから使われてきた言い方で、今は社交不安症(SAD)の一つとして扱われることが多いです。

現れ方には幅があります。

  • 視線恐怖:目を合わせられない、見られている気がする
  • 赤面恐怖:顔が赤くなるのが怖い
  • 会食恐怖:人と食事をする場面がつらい
  • 身体の反応:動悸、発汗、声や手の震え、腹痛
対人不安は、視線や赤面だけでなく、会食のつらさや動悸・震えなどにも現れます。
対人不安は、視線や赤面だけでなく、会食のつらさや動悸・震えなどにも現れます。

一方で、社交不安症は他者から否定的に評価されることへの不安が中心とされ、対人恐怖症は自分が相手に不快感を与えるのではという気づかいが強い、と区別する見方もあります。ただ診断や治療の場面では、両者はほぼ同じものとして扱われます

トラウマは「原因」ではなく「誘因・きっかけ」

対人恐怖症の始まりには、生まれ持った気質、育った環境、過去のつらい経験などが重なって関わるとされています。トラウマもその一つです。

ただ、ここは丁寧に見たいところです。過去の出来事は、そのまま原因というより、もともとの不安のなりやすさに火をつける誘因・きっかけとして働くという整理がされています。

だから、いじめがすべての原因だと決めつける必要はありません。今の怖さと過去の体験は、因果でつながっていると言い切るより、関連している可能性がある、という距離感で見るほうが実際に近いです。

思春期に多く大人になって気づく人もいる

対人恐怖症が始まりやすいのは思春期です。米国の調査では、社交不安症の発症のピークは14歳前後、生涯のうちに経験する人はおよそ13%と報告されています。

学生時代はやり過ごせても、就職などで人前に出る場面が増えてから強く気づくことがあります。
学生時代はやり過ごせても、就職などで人前に出る場面が増えてから強く気づくことがあります。

一方で、学生時代はやり過ごせていた人が、就職や昇進で人と関わる場面が増え、大人になってから強く自覚することもあります。今になって怖くなったことは、決して不自然ではありません

いじめやつらい経験が今の対人場面でどう再現されるのか

過去の傷つきは、時間がたっても消えるとは限らず、今の対人場面で形を変えて出てくることがあります。ここでは、それがどんなふうに再現されるのかを、いくつかの角度から整理します。

いじめ体験と「同世代や集団が怖い」の結びつき

学校のように、同じ年ごろの人が集まる場でいじめを受けると、その後も同世代の集団に強い不安を感じやすくなることがあります。

街で学生の集団を見かけただけで避けたくなる、というのはその一例です。前述の斎藤環氏は、同質な集団に押し込められる教室で生じた傷が、同世代との関係のつくりにくさとして残ると述べています。今の怖さが特定の場面に結びついているなら、それは弱さではなく体験の記憶です。

単回のトラウマと長く続いたつらさ(複雑性PTSD)の違い

トラウマには、大きく分けて二つのタイプがあると考えられています。

一つは、災害や事故のような一度の強い衝撃によるもの。もう一つは、いじめや家庭内の緊張のように、長い期間くり返し続いたつらさによるものです。後者は複雑性PTSDと呼ばれることがあります。

一度の強い衝撃も、長く繰り返されたつらさも、今の心に残る影響を軽く見る必要はありません。
一度の強い衝撃も、長く繰り返されたつらさも、今の心に残る影響を軽く見る必要はありません。

長く続いた体験のほうが、いつ何がきっかけだったかを本人も特定しにくく、影響が見えづらいという特徴があります。はっきりした事件がないのに苦しいことは、軽い証拠ではありません。ただしこれは自己理解のための枠組みで、自分で診断名を確定させる必要はありません。

予期不安と回避の悪循環、回避が広がる範囲

怖い場面を一度経験すると、また同じことが起きたら、という予期不安が生まれます。そして、その場面を避けることで、一時的に不安はやわらぎます。

けれど回避をくり返すうちに、怖さはむしろ強く、広くなっていきます。最初は発表の場だけだったのが、会話、電話、買い物、通院へと広がることもあります。回避がどこまで生活に及んでいるかは、今の状態を測る一つの目安になります。

回避が発表だけでなく会話や外出へ広がっていないかを、責めずに確かめることが状態把握の手がかりです。
回避が発表だけでなく会話や外出へ広がっていないかを、責めずに確かめることが状態把握の手がかりです。

怖さが特定の場面か人全般かを見分ける

自分の状態を見るとき、怖さが限られた場面だけなのか、人との関わり全般に広がっているのかを分けて考えると、輪郭がつかみやすくなります。

たとえば、発表やスピーチだけが苦手なのか、それとも雑談も食事も含めて人といること自体がつらいのか。どちらであっても優劣はありませんが、広がっているほど、一人で抱えるより誰かの手を借りたほうがよい段階に近づいています。

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一人で抱えないための相談・治療の選択肢と相談のサイン

ここまで自分の状態を見てきたうえで、次に何ができるのかを整理します。相談は、必ずしも大きな決断ではありません。選択肢を知っておくだけでも、少し楽になることがあります。

認知行動療法・段階的エクスポージャー・EMDR・薬物療法

対人恐怖症や、その背景にあるトラウマには、いくつかの支援の方法があります。

  • 認知行動療法:不安を強める考え方のクセを、現実的な見方へ整えていく
  • 段階的エクスポージャー:苦手な場面に少しずつ慣れていく
  • EMDR:トラウマ記憶の処理を助ける方法の一つ
  • 薬物療法:SSRIや抗不安薬などで、つらい症状を和らげる

どれが合うかは状態によって違います。一人で決めきらず、専門家と相談しながら選んでいけると知っておくだけで、身構えすぎずにすみます。無理な曝露や、いじめの相手に直接向き合うことを回復の条件にする必要はありません。

支援方法は一人で決めず、まず専門家へ相談し、自分に合う選択肢から小さく進められます。
支援方法は一人で決めず、まず専門家へ相談し、自分に合う選択肢から小さく進められます。

専門家に相談した方がよいサイン(不眠・フラッシュバック・落ち込み)

次のような状態が続くときは、一人で抱えるより相談を考えたいサインです。

  • 眠れない、食欲がわかない日が続く
  • フラッシュバックや悪夢がくり返される
  • 気分の落ち込みが長く抜けない
  • 回避のために通勤・通学・受診など生活の基盤が難しい

そして、何年も誰にも話せないままでいること自体も、相談していいサインです。自分を傷つけたい気持ちが出ているときは、早めに医療機関や相談窓口につながってください。

眠れない、何度も思い出す、生活が難しい状態が続くときは、相談してよいサインです。
眠れない、何度も思い出す、生活が難しい状態が続くときは、相談してよいサインです。

相談先と、話したくないことは話さなくていいこと

相談先には、心療内科・精神科、カウンセリングのほか、働く人向けの公的な窓口もあります。厚生労働省のこころの耳のような場所では、体験談や相談先の情報にも触れられます。

相談の場では、つらかった出来事を最初から詳しく話す必要はありません。話したくないことは話さなくていいと決めておくだけでも、受診のハードルは下がります。話せる範囲から始めれば十分です。

回復とは「人が怖くなくなる」ことではない

最後に、回復のイメージについて触れておきます。人が怖くなくなることをゴールにすると、かえって自分を追い込んでしまうことがあります。

安全な相手とまだ確認できていない相手を分けて付き合う

回復とは、すべての人を平気になることではありません。安全だと確認できた相手と、まだ確認できていない相手を分け、付き合い方を選べるようになることが、現実的な回復の姿に近いといえます。

すべての人を怖くなくするより、安全だと感じられる相手との関係を少しずつ選ぶことが回復につながります。
すべての人を怖くなくするより、安全だと感じられる相手との関係を少しずつ選ぶことが回復につながります。

斎藤環氏は、同世代の中で傷ついた記憶は、新しい安全な人間関係の中で少しずつ和らいでいくと語っています。焦って人の輪に飛び込まなくて構いません。

怖さがゼロになる日を目指すより、今日はここまで、と自分で線を引けること。その小さな選択の積み重ねが、あなたのペースを少しずつ取り戻していきます。

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監修者: 石川蓮(公認心理師)

公認心理師、行動心理士。1997年生まれ。北里大学・大学院卒業。その後、公認心理師と行動心理士の資格取得。
在学中は高齢者や生産人口の色覚異常や朝型夜型特性が睡眠に与える効果等の研究を行う。
大学院卒業後、大学病院附属の研究所にてカウンセリングやデータマネジメント担当として勤務。また、都立高校の心理学講師としても勤務。
「心の悩みを持つ方のそばに寄り添う」をモットーに業務遂行しております。

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